西村京太郎の『札沼線の愛と死 新十津川町を行く』は、予想以上に面白かった。物語は、北海道の過疎地である新十津川町で突然発生した「魔法使い騒ぎ」から始まるが、その裏には悲しい殺人事件が隠れている。
作中では、主人公の十津川警部が自身の姓のルーツである奈良県の十津川村と、母村を由来とする北海道の新十津川町について言及しており、地域に根ざした要素が物語に深みを与えている。
また、物語の中で進行中の札沼線廃線問題や、新十津川町で発足した魔法使い探し隊、さらには町主催の魔法使いコンテストなど、非常にユニークで予想外のイベントが繰り広げられる。この魔法使いコンテストは、町長やJR北海道副社長など、名だたる人物が審査員として参加し、新十津川町のふるさと公園で盛大に開催されることになる。
その後、事態は予期しない方向へ進み、なんと「本物の魔法使い」が登場してJR北海道副社長にある要求を突きつける。魔法使い防止法違反で検挙を試みる滝川警察署の署員たちを、魔法使いは軽々と4メートルのジャンプで逃げ、現場は騒然となる。この非現実的な状況に、読者も一緒に驚くことになる。
本作は、北海道の過疎地で起こる異常事態を背景に、地域社会や警察、さらには「魔法使い」という謎の存在を絡めたスリリングな展開が魅力的だ。
いったい今、新十津川で何が起きているのか。
この不安を煽るような言い方、いいねえ。『今、中空知は狙われている』って中空知防衛軍の冒頭のフレーズを思い出す。
魔法使いと言ったって、もちろんこれはくっせー『なろう系』異世界モノ小説ではなく、正真正銘の西村京太郎センセの『十津川警部シリーズ』です……。
本作でも十津川警部の名推理は健在で、さすが警視庁捜査一課の刑事だ。まさにエスワンエスの実力を発揮している。捜査となれば、南は沖縄から北は新十津川まで、越境捜査をするのもお手の物だ。
キザシで乗り付けてマリンで大盛りに挑戦してる新十津川警察署(そんなものはない)の刑事とはえらい違いだな……。カツカレー大盛りに、食後のガリガリ君。マリンは閉店したね……。
魔法使いのいるような地域では、覆面パトカーが何気なくお店に止まっていたり、私服刑事がコーヒー片手に歩いているのも日常の一部である。
今も覆面パトカーでラーメン屋さんに行くの?手をすりすり合わせながらおしぼりで顔を拭きながら店員に『おみそくださいっ』とか言って味噌ラーメン頼んで、カウンターで味噌ラーメン食べながら他の客の顔をじっと見るの?バイトの女も『チェッ・・キモッ』って内心思ってるよ。いいんだよそんなことは。いいじゃないか。ココロをこめて作ったラーメンを味わってね。うちのラーメンはまずスープから!読ませる力はソラチカラ!ガラが命なんだよラーメンは。
確かに、同じ刑事でも東京と北海道の違いは際立っている。映画『日本で一番悪いやつら』での北海道の刑事と東京の刑事のやり取りは、まさにその典型だ。道警のヤラセ摘発が明るみに出た時、東京からやってきた警視庁刑事があまりにもストレートに「こんなことして恥ずかしくないのか!」と一喝するシーンには、実際のところ北海道警察と警視庁の対立が垣間見える。犯罪がないなら作る、というその姿勢が、いかにも北海道っぽい。
また、滝川市のような地方では、警察官か自衛官になるしか選択肢がないという現実もあるという。そこで、道警の刑事が「どうせあんたらもやってることだべ!」と反発する場面も、いかにも地方警察官らしいリアクションだ。しかし、その反面、警視庁刑事が「この拳銃はウチが摘発しますから」と言い放つところが、警視庁のしたたかさを感じさせて見事。これもまた、警察本部同士の微妙な力関係を示している。
都道府県警同士で、互いにスキャンダルを握り合っているという視点は、確かにあり得そうだ。特に隣接する警察本部同士では、お互いの弱みを探り合っているようなところがあるかもしれない。神奈川と警視庁、兵庫と大阪・京都のように、普段から張り合っているところでは、まさに「俺たちはいつでもお前らを潰せるぞ」という感じで、スキャンダルを持ち合うこともあるのではないだろうか。都道府県警の内部でも、他県警の不祥事を調べ上げ、情報を集める部署があってもおかしくはないだろう。
北海道警察の場合、そのライバルは青森県警やロシア連邦保安庁というよりは、むしろ東京の警視庁という見方もできるだろう。管区警察局に属さない警察本部同士の対立という点で、警視庁と北海道警の関係は、思いのほか深いものがあるのかもしれない。
それあなたの感想ですよね?しかも別作品。やめてもらっていいですか?
はい。
『札沼線の愛と死 新十津川町を行く』のあらすじ
十津川警部の地元、東京・三鷹で発生した男性射殺事件と、北海道新十津川町で同時に発生した魔法使い騒ぎ。この二つの事件が繋がるのか、それともただの偶然なのか。新十津川町で発生したのは、魔法使いが4メートル上の新十津川町営バスの屋根にジャンプして高笑いし、雪の中に消えたという怪奇現象。雪の夜に現れ、雪でコケることなく悠々と姿を消したというその光景は、まるで都市伝説のようだ。
通常なら、こういった事案はすぐに道警の「ほくとくん防犯メール」で配信されるところだが、地元の滝川警察署や新十津川役場では、その異常さを信じてもらえない。特に、目撃者が若い女性ばかりであるため、最初は「作り話だろう」や「集団ヒステリーだろう」と片付けられてしまう。女子高生が教室でこっくりさんをして発狂する場面を思い出すような反応だが、今の時代、こっくりさんをやるやつはいねえ。
しかし、魔法使いの目的は一体何なのか。そして、なぜ新十津川町を選んだのか。東京の殺人事件との関係は? いったい何が絡んでいるのか。人々の思惑が交錯し、この小さな町で新たな謎が展開する。舞台となるのは、廃線の瀬戸際に立つ札沼線。その背景にある歴史や運命が物語を引き締め、読者を引き込む。
JR札沼線(さっしょうせん)について
西村京太郎と言えば、トラベルミステリーの巨星であり、列車や鉄道に対して非常に厳格なこだわりを持っている作家としても知られている。彼の作品には、しばしば鉄道が重要な舞台となり、詳細な路線や駅名が描かれることが特徴だ。その意味でも、JR札沼線は彼にとって絶好の舞台となる。
JR札沼線は、札幌市中央区の桑園駅から新十津川町までを結ぶ、全長78.1kmの路線で、北海道の鉄道網においても重要な役割を果たしてきた。しかし、近年は利用者数の減少や採算性の問題から、廃線が検討されていた。この路線を巡っては、周辺の町や新十津川町がジェイアール北海道に対して廃止の中止を求めるなど、議論が続いていた。最終的には、JR北海道が採算が取れないと判断し、バスへの転換を望む意向を示した。新十津川町を含む自治体もその廃線案を受け入れ、2020年5月7日をもって廃止が決定した。
十津川警部らの新十津川町内での魔法使い捜査の軌跡
さて、この物語において重要なのは、十津川警部一行が新十津川町へ赴いた理由である。実は彼らが訪れたのは、決して「魔法使い探し」ではなく、殺人事件の捜査が目的であった。しかし、捜査の過程で突如として「魔法使い騒ぎ」が起き、捜査が予想外の方向に進展していく。
新十津川町は、奈良県の十津川村を母村とし、地域のつながりが深い場所である。そのため、十津川警部の「十津川」という姓にも関わりがあり、地元に対する特別な感情がある。
それでは、十津川警部らによる新十津川町魔法使い捜査隊の軌跡をこのページで検証しよう。おい。もう、これは日本版Xファイルだ!スカリー役は誰なんだ。そんな奴はいねぇ(笑)
知らない人のためにかいつまんで説明すると、新十津川町は奈良県の十津川村を母村としている。
美しい奈良県十津川村の風景。いわずと知れた新十津川の『母村』だ。 引用元 十津川村観光協会お知らせ
1889年(明治22年)の十津川村の大水害は、北海道・新十津川町の歴史に深い影響を与えた出来事であった。この水害により、160人以上の命が奪われ、生活の基盤を失った村民のうち、約3000人が新天地を求めて北海道に移住した。その地が、新十津川町である。彼らは、北海道の空知平野の荒れたオフロードを開墾し、農地として発展させた。
その過程や歴史は、『新十津川物語』などを通して知ることができる。
なお、2018年には北海道命名150年を記念して、この物語がNHK総合北海道ローカル枠で再放送された。
新十津川町は、隣町の砂川市と比べると、非常に牧歌的な雰囲気を持っている。砂川市は炭鉱の町として発展し、特に上砂川町の周辺は、炭鉱に依存してきた街であった。一方で、新十津川町はコメ農家が主な静かなる町であり、その産業の違いが風土にも色濃く反映されている。
砂川市では、しばしば荒れた雰囲気を持つ人物たちが目立ち、愛車がヴェルファイヤで、後部にDADシールを貼って威嚇するような姿も見かけられる。一方で、新十津川では、そういった激しい雰囲気は少なく、のんびりとした田舎の風情が感じられる。
飲んだくれの荒くれDV土建業オトコとオラオラ系にホの字の砂川ヤリマン、愛車は当然100回払いのアルヴェル。もちろん後方にDADシールで威嚇!魔法使いがウイッチなら、尻軽女はビッチか。うるせー(笑)まあ、結局砂川であれ、新十津川であれ、法定速度でチンタラ走ってるとオラオラ煽られるのは変わらんけどな(笑)
そのような町に突如現れる「魔法使い」。一見、現実とはかけ離れた存在だが、物語の中ではその登場が大きな事件の鍵を握る。
十津川警部ら、新十津川物産館 食路楽館でシャリつけ
ここが食路楽館(くじらかん)。
出典 https://drive.nissan.co.jp/SPOT/detail.php?spot_id=42512
正式名称を新十津川物産館 食路楽館という。一階のみやげ物売り場では新十津川の名産のほか、母村である十津川村の名産品も各種並んでいる。階段の吹き抜けがまた圧巻だ。『シントツカワクジラ』の化石が吊るされているのだから。そして二階がレストランになっている。
館内レストラン「レストランくじら」に昼飯とモクへの聴取を兼ねてやってきた十津川警部は開口一番「参ったね」と嘆いた。十津川警部は思わず、そのメニューに呟いたのだ。十津川警部は『とりめんセット(650円)』が気に食わんのだ。
この部分はやっぱり、渡瀬恒彦で脳内再生されるよな。
しかし、恒彦は結局注文したのである。
『参ったね』と、いいながらも、十津川たちは、とりめんにめはりずしがついた、650円の『とりめんセット』を注文した。
引用元 西村京太郎著 『札沼線の愛と死 新十津川町を行く』
これが実際の『とりめんセット(650円)』である。
ドンッ。参ったね。
作中にて十津川は『とりめんセット(650円)』に対するレビューをしてはいないが、十津川警部の「参ったね」の言葉から察するに、どうも十津川警部はめん料理または鳥料理が嫌いのようである。「七色いんこ」の千里万里子刑事か。なぜ頼んだ?
この緑色のボタモチみたいなのは、飯を高菜で巻いた『めはり寿司』という。十津川村が所在する奈良の吉野地方に伝わる郷土料理だ。めはり寿司という食文化に馴染みのない北海道民からすると、寿司という名称から酢飯を連想するのだが、実際には中身は麦飯とおかかのおにぎりであり、多少拍子抜けした。
しかしながら、このとりめんセット以外にも意外とメニューは豊富(2017年当時)で、わざわざ、とりめんセットを頼む必要もなかったはずなのだが、やはり十津川村の郷土料理という事から、十津川警部らはこれを頼んだのではないか。
後述するが、作者の西村氏自身はすでに奈良県十津川村の観光大使に就任しており、めはり寿司を知らないわけはない。
ドンッ。参ったね。何回もしつけぇよ。だが、実際にはとりめんは出汁がきいており、非常に美味であったことをお断りしておく。
そして、十津川警部、亀さんらは同レストランの従業員から興味深い話を聞けたのであった。
これ、事件の首謀者は絶対、新十津川町の副町長だろ!魔法使い騒ぎを馬鹿らしいと一蹴しているのは自分に疑いの目が向けられないために決まってる。新十津川町副町長を今すぐ北海道迷惑防止条例違反で逮捕しろよ!
などとバカが素人丸出しで珍推理してみたものの、犯人(魔法使い)はもちろん、新十津川町役場とは全然関係がないのであった(ネタバレすいましぇーん)。
東京の警視庁から新十津川町へはるばるやってきた十津川警部らの捜査珍道中は続く
とくに新十津川を管轄とする滝川警察署から捜査支援などの連携を取るでもない十津川警部ら。道警の顔を立てるべきか、そもそも魔法使いの容疑は何だよ……と苦悩したり、しなかったり、滝川のホテル三浦華園かホテルスエヒロとおぼわしきホテルのロビーで亀さんら他の刑事たちと捜査会議をしたり、しなかったりする捜査チームであった。
Xファイル2016で言うと、トカゲ男のエピソードだな。シーズン中、その話だけ他よりだいぶ浮いているという。
ちなみに魔法使いというと、老婆あるいは京都アニメーション作品の様に少女を連想させるが、本作の魔法使いは男である。なお、ウイッチは女性の魔法使いを指し、男性の魔法使いの場合はウィザードとされるのが業界的には一般的だという。何の業界だよ。
新十津川駅にて
ここが真冬の夜の新十津川駅。おっふっふ。幻想的じゃの。ヤツは現れた。そうここに。冬の新十津川駅に。魔法使いがここで鉄オタ刑事に取り押さえられるのだ。もうこの駅も見られなくなるんだぜ。
新十津川町主催の『魔法使いコンテスト』が開催される『ふるさと公園』
出典 http://www.shintotsukawa.net/park.htm
場所は変わって、新十津川町主催の「魔法使いコンテスト」が開催される『ふるさと公園』。魔法使いの質と技量、ツヤを見極める壮大なコンテストだ。
筆者が小学生の頃は、ナマズすくいなんて妙な催しがあったが、2017年には魔法使いコンテストが開催されるとは、まさか新十津川も京都アニメーション的な萌え文化に迎合する時代が来るとは思わなかった。
物語の中盤では、ふるさと公園での大騒動「魔法使いコンテスト」が華を添える。新十津川で起きた正体不明の魔法使い騒ぎがきっかけとなり、魔法使いブームに火がついた。全国から我こそはと集まった老若男女が、ここで開催されるコンテストに集い、祭りのような騒ぎが繰り広げられる。10万人くらいは収容できるぞ。嘘つけ。
コンテストの入賞者には、新十津川の名産品、金滴などが贈呈されるという。審査員には、新十津川町長をはじめ、JR北海道副社長などが名を連ね、STV(たぶん)の中継車も来ているという盛況ぶりだ。
だが、コンテストにはなんと本物の魔法使いも参加していた。彼は4メートルのバーに飛び乗り、驚く審査員や観客を尻目に、副社長らにある要求を突きつける。魔法使いは、怒った滝川警察署の署員たちに「逮捕するぞ!」と脅され、拘束されそうになるが、得意の4メートルジャンプで現場を後にする。
俺の中での魔法使いの男のイメージは、こんな感じだ。もちろん、4メートルジャンプで逃げるときは、ふははははっと笑いながら逃げるものだ。
出典 https://movies.yahoo.co.jp/movie/86137/
まとめ
実際に読んでみると、なかなか面白い作品だ。新十津川をこんな方法で有名にしても、地元の人たちが喜ぶわけがないだろう(殺されたおっさんの言葉)。でも、面白さには素直に感心させられる。
別に十津川警部シリーズのファンというわけでもなく、日本の刑事ドラマよりも超常現象を追う『X-FILES』のほうが好きだが、それでも楽しめた。
ちなみに西村京太郎氏、御年86歳。魔法使いというテーマを選んだ背景についてはわからないが、もし編集者が「センセイ、魔法使いの話なんてどうですか?冬の北海道と相まって幻想的でしょ」と提案したとしても、86歳で萌え萌え魔法使いを書くのは無理があるだろう。だからこそ、登場する魔法使いはオッサンなんだろうな。
それにしても、西村京太郎氏が現代のアニメやマンガの萌え文化についてどう思っているのか、気になるところだ。調べてみたら、実は『アキバ戦争』という作品を2008年に執筆していたことがわかった。執筆当時78歳。秋葉原を舞台に、警視庁捜査一課の刑事が誘拐された美少女メイドを追い、美少女抱き枕を持って秋葉原を捜査するという、非常に味のある作品に仕上がっている。
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いや、そんな話はどうでもいい。『魔法使い』に言わせた新十津川町に対する純粋な想いは、氏の想いそのものだと思えた。
これは新十津川町全面協力のもと、UHBでドラマ化待ったなしだろう。それも札沼線が廃止になる前に出来るだけ早めにやったほうがいい。
筆者は魔法使いコスプレコンテストのエキストラで絶対出るぞ。ただ惜しむらくは十津川警部役を演じた渡瀬恒彦氏が2017年3月に鬼籍に入られていることだ。ドラマで十津川警部役を演じた俳優は複数いるが、筆者は渡瀬恒彦氏のイメージしか浮かばない。本作を読みながら筆者の頭の中で繰り広げられた光景は渡瀬恒彦と伊東四朗が事件解決後に三浦華園で新十津川の名酒・金滴に舌鼓を打つ場面だしなあ。
追記
いやあ、ほんとうに酷いドラマでしたね。コロナの影響が大きかったとは思いますが、それにしても驚いたわ。まさか本当に新十津川警察署が登場するとは。
それはさておき、原作を完全に無視するのはどうなの?もしかして、僕は別の小説を読んでいたのかな?そう思うことにします。
でも、もしかして西村京太郎の作品って、『時刻トリック』がメインで、それさえ描かれればあとはおまけみたいな感じなのでしょうか。
なお、本作品について、2017年3月の毎日新聞によれば『新十津川町内で話題になっている』と報じられており、新十津川町役場ならびに住民も好意的に受け止めているようだ。同町としては作中のように実際に観光客の増加につながればという思惑もあるのだろう。
https://mainichi.jp/articles/20170309/k00/00m/040/042000c
追記・2018年11月、なんと新十津川町が西村京太郎氏に観光大使を嘱託した。これは、すでに母村である奈良県十津川村の観光大使に西村氏が就任していることが由縁であり、本作品出版記念というわけではない。なお、西村氏は十津川という村の名前を気に入ってシリーズの主人公に名づけたそうである。