なんと、あの砂川のネオン街が――飲酒運転根絶の「モデル地区」に指定されたらしい。ついでに、お隣の滝川の繁華街も仲良くご一緒に。飲酒運転の温床だった場所が、今や模範地域。そう聞いて思わず吹き出したのは、筆者だけではないはずだ。
8日、滝川警察署によって正式に「飲酒運転根絶モデル地区」のお墨付きが下されたのだという。式典まで開かれたというから、念の入れようである。
飲酒運転が後を絶たないなか滝川警察署は、砂川市と滝川市の歓楽街を「飲酒運転根絶モデル地区」に指定することになり、8日、指定書の交付式が行われました。
略
砂川社交飲食協会の久保敬介会長は「飲酒運転根絶の宣言書を各店舗に配り、一致団結して根絶に取り組みたい」と話していました。滝川警察署の小野暁行交通課長は「飲食店には、客が飲酒運転をするおそれがあるときはすみやかに警察に通報してほしい」と話していました。
出典 https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20200709/7000022808.html
砂川社交飲食協会の会長は、「根絶宣言書を配って一致団結する」とコメント。一方、滝川署の交通課長は「客が飲酒運転しそうだったら、迷わず通報を」と述べた。
ネオンの海に道徳の花を咲かせる気か。種をまいたのは警察署というあたりに“本気度”がうかがえる。
モデル地区の店舗には、まぶしい黄色の「飲酒運転根絶宣言」シールが配布されるとのこと。こいつが「種」だ。店先にペタリと貼って、ドライバーの良心にそっと訴える古典的な手法。パトカーも大事だけど、シールも大事。今2020年ですよ。ビックリマンシールのブームって1988年ですよ。
──思えば2015年、あの砂川市で起きた飲酒運転による一家5人死傷事故から、もう5年。加害者は酒に酔ってなお敢えてハンドルを握り、時速最大170キロで赤信号を飛び越え、家族の車に衝突。彼らをとめることなく送り出したあの飲み屋街が、今や道徳の砦を名乗っている。
もちろん、取り組み自体を茶化すつもりはない。ただ、こうして毎年のように「新たな決意」を掲げねばならないほど、飲酒運転はしぶとく、根絶には程遠いという事実もまた、皮肉である。
砂川の夜は今日もネオンが灯る。ステッカーは夜の歓楽街で小さく、その与えられた役割を果たすかのように静かにアピールしている。
それでも、あの道を走る車の中に、酒の匂いがしないことを祈るばかりだ。
砂川署、消滅。――で、今はどうなってるの?
2020年4月。
砂川市の警察行政に、静かな――しかし決定的な変化があった。長年地域に根を張っていた砂川警察署は廃止され、その業務はすべて滝川市にある滝川警察署に吸収される形となった。
看板だけは新たに「滝川警察署砂川警察庁舎」と掲げられ、地元民からすれば、まあ、分署という名の残響に過ぎない。
その庁舎、なんとコンビニの裏手にこっそりオープン。平屋建てのシンプルな建物には車庫もあり、あの一度は姿を消した「交通機動隊砂川分駐所」も併設でちゃっかり復活。正面には「POLICE」のシャレた白文字が踊る。
このフォントに、かつての砂川署の記憶を重ねる者はいないだろう。
一方、滝川警察署本体もてんてこ舞い。
元・滝川消防署の庁舎はというと、署の目の前にあるそれが警察車両の仮置き場に早変わり。新庁舎建設中とはいえ、車両も人も増えたことで、スペースは完全にパンク状態。
もともと狭かった滝川署に、砂川から移ってきた人員と機材が押し寄せた結果、旧消防庁舎は臨時の受け皿と化している。街の中心で、警察の舞台裏が絶賛・公道から丸見え中だ。
──とまあ、こんな感じで再編された「砂川エリアの警察」だが、当初掲げていたあの大義はどうなったのか。
例の「飲酒運転根絶モデル地区」の話だ。黄色いステッカーが貼られ、地域の飲み屋も正義の旗を掲げた。警察は「飲むなら運転するな、見たら通報を」と呼びかけ、店主たちは「団結」と口にした。
しかし、わずか1年後の2021年3月。
滝川市三楽街のとある飲食店の女店主自身が、飲酒運転で現行犯逮捕された。
彼女の店も、もちろんモデル地区内。例のステッカーが玄関に誇らしげに貼ってあったのだろうか。
結局、モデル地区とは「失敗例のモデル」だったのかもしれない。こうして「根絶」は、言葉通り“根こそぎ絶たれた”わけではなく、案外もろかったというオチでした。